【研究の要旨とポイント】 河川中のマイクロプラスチック(MP)のサイズスペクトルを算出し、粒子数濃度および質量濃度とサイズ分布との関係性を明らかにしました。べき乗則モデルにより、MPの限られた観測サイズ範囲から未計測のサイズ範囲を含む質量濃度を高精度で推定できることを実証しました。本研究は、MPデータの統一的な整理とMPによる環境汚染の実態解明に向けた重要な一歩となることが期待されます。
【研究の概要】 東京理科大学大学院 創域理工学研究科 社会基盤工学専攻 水理研究室の江越 弘太氏(2026年度 修士課程2年)、同大学 創域理工学部 社会基盤工学科の田中 衛助教、二瓶 泰雄教授らの研究グループは、鶴見川(*1)で採取したマイクロプラスチック(MP)データをもとに、河川における粒子数濃度および質量濃度のサイズスペクトルを算出し、観測サイズ範囲から未計測のサイズ範囲を含む質量濃度を高精度で推定できることを実証しました。MPは海洋・河川・大気・地下水など広範な環境で検出されており、河川においては発生源の特定や汚染の実態把握を目的とした調査が数多く行われてきました。しかし、特に小型のMPを観察・分析するための標準的な手法はいまだ確立されておらず、MPの粒子数濃度および質量濃度とサイズ分布の関係について十分な理解が得られていませんでした。そこで本研究では、鶴見川を対象にMPの実態調査を行いました。MPのサイズ別に3種類の異なるサンプリング方法を用いて7つのMPサンプルを採取しました。分析の結果、すべてのサンプルについて、MPの数濃度および質量濃度のサイズスペクトルがべき乗則で統計的に有意に近似できることを示しました。推定されたべき乗則の傾きは、粒子数濃度で-3.27 ± 0.19、質量濃度で-1.05 ± 0.20となり、それぞれ理論的な仮定値である-3および-1に近い結果が得られました。さらに、限られたサイズ範囲の測定データにべき乗則モデルを当てはめ、未測定のサイズ範囲へ外挿することで、MP全体の質量濃度を精度よく推定できることを実証しました。このアプローチは、これまで研究間の直接比較を困難にしてきたMPサイズ範囲の違いという課題を解決するものです。これにより、蓄積されたMPデータを横断的に活用できる基盤が整い、河川におけるMP汚染の実態をより包括的に把握することへの貢献が期待されます。本研究成果は、2026年4月2日に国際学術誌「Environmental Pollution」にオンライン掲載されました。
【研究の背景】 近年、プラスチックの微細な破片であるマイクロプラスチック(MP)による環境汚染が、大きな注目を集めています。MPは海や川、大気といった自然環境だけでなく、水道水や人間の血液からも検出されており、汚染が私たちの生活に深く入り込んでいることが明らかになっています。こうしたMPは水生生物に対しても重大な生物学的・物理的影響を与えますが、その影響の程度はMPのサイズ分布に強く依存することが明らかになっています。そのため、広範なサイズにわたる環境中のMPの発生源および汚染の実態を詳細に把握することが、今後の対策を講じるうえで不可欠です。これまでの研究では、比較的大きなマイクロプラスチック(LMP)に比べて、小型のマイクロプラスチック(SMP)のサンプリングおよび分析手法の標準化が遅れているうえ、調査対象のサイズ範囲も研究間でばらつきが大きく、統一的な比較が困難でした。また、サイズ分布の分析においても、サイズ区間の分け方に統一基準がないことで、べき乗則の指数が研究間で大きく異なり、一貫した評価が得られていませんでした。さらに、サイズスペクトルの研究で河川を対象としたものはほとんどなく、とりわけ質量濃度に基づくサイズスペクトルの研究はいずれの環境においても実施されていませんでした。このように、幅広いサイズにわたって粒子数・質量の両面から河川中のMPを評価した研究はありませんでした。本研究グループはこれまで、日本全国のさまざまな河川を対象にMPの実態調査を行い、優れた成果をあげてきました(※1~3)。本研究では、鶴見川を対象として、3種類のサンプリング方法を用いて広範なサイズのMPを採取・分析し、粒子数濃度および質量濃度のサイズスペクトルを算出しました。さらに、べき乗則モデルの適用可能性と、限られたサイズ範囲からの質量濃度推定の有効性を検証しました。
【研究結果の詳細】 マイクロプラスチックをサイズに応じて、小型(SMP: 1 ~ 200 μm)、中型(MMP: 200 ~ 700 μm)、大型(LMP: 700 ~ 5000 μm)の3種類に分類し、各サイズに適したサンプリング手法を用いました。LMPおよびMMPについては、それぞれメッシュサイズ335 μmおよび100 μmのネットを河川表層に5分間および2分間浸漬して回収しました。SMPについては、ステンレス製バケツで10 L以上の表層水を採取し、この中から回収しました。サイズスペクトルの算出:各サイズに適したサンプリング手法で採取したデータをもとに、SMP・MMP・LMPそれぞれのサイズスペクトルを算出しました。これらを統合して全体のサイズスペクトルを算出した結果、粒子数濃度・質量濃度ともにサイズが小さくなるほど濃度が高くなる傾向が確認されました。べき乗則の適用:全てのサンプルにおいて、粒子数濃度・質量濃度のサイズスペクトルにべき乗則が統計的に有意に適用できることが示されました。その傾きは、粒子数濃度で-3.27 ± 0.19、質量濃度で-1.05 ± 0.20となり、理論的な仮定値である-3と-1にそれぞれ近い値が得られました。MP質量濃度の推定:べき乗則モデルを使って、限られたサイズ範囲の測定値から全体の質量濃度を推定した結果、推定誤差はSMP側からの外挿で39 ~ 56%、LMP側からの外挿で13 ~ 61%でした。特にLMP側では上位3件の誤差が約20%にとどまり、適切なサイズ範囲を選択することで実用的な精度での推定が可能であることが示されました。本研究により、べき乗則を用いた外挿によってMPの質量濃度を精度よく推定できることが実証されました。これにより、調査サイズ範囲の違いによって比較が難しかった研究間のギャップを埋めることができ、MPデータの統一的な整理と河川M(以下、続く)
FACT BOX ・ 要点整理
- 出典:PR TIMES
- 分類:調査
- 製品・サービス:マイクロプラスチック濃度評価手法