岡山大学と富山大学の共同研究成果プレスリリースです。
2026(令和8)年 6月 13日 国立大学法人岡山大学
https://www.okayama-u.ac.jp/
<発表のポイント> - 脳内のサポート役であるグリア細胞を、神経細胞へ直接作り変える新しい遺伝子治療のアプローチを血管性認知症モデルで実証しました。 - 神経誘導に関わる3つの転写因子(Ascl1、NeuroD1、Sox2)をグリア細胞に導入することで、記憶に関わる海馬の炎症を抑え、ダメージを軽減しました。 - 海馬での新たな神経細胞の生成と認知機能の改善傾向が確認され、認知症に対する画期的な再生医療となることが期待されます。
◆概要 国立大学法人岡山大学(本部:岡山市北区、学長:那須保友)大学院医歯薬学総合研究科のRicardo Satoshi Ota-Elliott大学院生(研究当時。現:ペルー日秘百周年記念病院小児科)と岡山大学学術研究院医療開発領域(岡山大学病院)の福井裕介助教、同大学学術研究院医歯薬学域の山下徹准教授(研究当時。現:富山大学学術研究部医学系脳神経内科教授)、同大学学術研究院医歯薬学域の石浦浩之教授の研究チームは、脳内でサポート役を担う「グリア細胞」を記憶に関わる「神経細胞」へ直接作り変える、画期的な遺伝子治療のアプローチを血管性認知症のモデルマウスで実証しました。神経への分化を促す特定の遺伝子(3種の転写因子)を導入することで、記憶を司る「海馬」の炎症を抑え、記憶に不可欠な領域の深刻なダメージを防ぐことに成功しました。さらに、海馬で新たな神経細胞が生成され、認知機能の改善傾向も確認されました。
これらの研究成果は2026年4月16日、国際脳循環代謝学会の学会誌「Journal of Cerebral Blood Flow & Metabolism」にResearch Articleとして掲載されました。
血管性認知症は認知症の中で2番目に患者数が多く、深刻な世界的課題となっています。これまで根本的な治療が難しかったこの病気に対し、脳にもともとある細胞を利用して新たな神経細胞を生み出す本成果は、脳のダメージを直接修復するという全く新しい治療の可能性を示すものです。
本研究は、認知症を始めとした神経疾患の治療において画期的な「再生医療(遺伝子治療)」の実現に向けた大きな一歩です。今後、神経細胞が作られる詳しいメカニズムの解明を進めることで、認知症によって失われた記憶や認知機能を回復させる、革新的な新薬や治療法の開発へとつながることが期待されます。
本件は、2026年5月21日に岡山大学から公開されました。
図. ANS投与による海馬CA1領域での新たな神経細胞の生成. 記憶に重要な脳の「海馬(CA1という場所)」の顕微鏡画像です。正常なマウス(正常対照群)や血管性認知症モデルマウス(疾患対照群)では変化がありませんが、ANSを投与したマウスでは、グリア細胞から神経細胞へと作り変えられたことを示す「赤と緑の両方に光る二重陽性細胞(白矢印)」が観察されました。右下の図は、その細胞を拡大したものです。
記者会見で研究成果を紹介する福井裕介助教
◆研究者からひとこと 失われた脳の機能を回復させる根本的な治療法は、長年の大きな課題でした。本研究は、脳内のグリア細胞を神経細胞へと直接生まれ変わらせることで、脳のダメージを防ぐ新しい治療法を実証したものです。この成果が、再生医療や認知症の新薬開発につながる大きな足がかりになってほしいと思っています。今後もメカニズムの解明を進め、新しい治療につなげられるように研究に邁進いたします。
Ricardo Satoshi Ota-Elliott院生(研究当時)と福井裕介助教(右)
◆論文情報 論文名:Direct glia-to-neuron conversion mitigates hippocampal damage in a vascular dementia mouse model 掲載誌:Journal of Cerebral Blood Flow & Metabolism 著者:Ricardo Satoshi Ota-Elliott*, Yusuke Fukui*, Xinran Hu, Yuting Bian, Hongming Sun, Hangping An, Hongzhi Liu, Ryuta Morihara, Hiroyuki Ishiura, and Toru Yamashita. DOI:10.1177/0271678X261441070 URL:https://journals.sagepub.com/d
FACT BOX ・ 要点整理
- 出典:PR TIMES
- 分類:ニュース
- 関連組織:ペルー日秘百周年記念病院