株式会社イトーキ(本社:東京都中央区、代表取締役社長:湊 宏司、以下「当社」)は、株式会社松尾研究所(本社:東京都文京区、代表取締役:川上 登福、以下「松尾研究所」)と共同で、ABW(Activity-Based Working:アクティビティ・ベースド・ワーキング)オフィスにおける従業員の移動・滞在行動と生産性関連指標の関係を職種別に分析した研究成果を、2026年度 人工知能学会全国大会(JSAI 2026)にて発表しました。

本研究では、2025年12月の1か月間、当社本社オフィスに勤務する従業員945名の位置情報データや会議予約データをもとに、移動の質と生産性の相関を分析しました。その結果、会議などに伴う受け身の移動と、業務に応じた能動的な場所選択を区別して捉えることが、ABWオフィスの運用設計において重要である可能性が示されました。

共同研究の背景

近年、労働力人口の減少や人材獲得競争を背景に、企業には生産性の向上や従業員エンゲージメントの向上がより強く求められています。また、ハイブリッドワークの定着により、働く場所や働き方が多様化する中で、「何が生産性を高めるのか」は企業や組織、職種によって異なり、その全体像を捉えることが難しくなっています。

さらに、オフィス内のセンシング技術や分析技術の進展により、オフィスレイアウトデータやオフィス内の行動データ、組織のコンディションデータなど、働く環境に関するデータを多面的に取得・分析できるようになっています。一方で、これらのデータを生産性や組織成果との関係でどのように読み解き、オフィス運用の改善につなげるかは、企業にとって新たな課題となっています。

こうした課題に対し、当社が持つオフィスづくりや働き方データの知見と、松尾研究所が持つAI・データ分析の知見を組み合わせることで、働く環境と生産性の関係をより客観的に捉えることを目指し、2025年より共同研究を開始しました。

本共同研究では、「オフィスにおけるマルチモーダルデータ活用による生産性評価研究」を進めています。その目的は、「生産性の定義と向上に寄与する行動・環境モデルの構築」と「生産性の客観的な計測・検証手法の確立」です。

当社は、オフィスづくりを手がける企業として、オフィスが単なる執務場所ではなく、働く人の生産性や創造性、組織の成果を高める場であると考えています。現在、本研究で得られた知見も活かしながら、働く環境を継続的に改善し、オフィス「運用」を進化させる取り組みを強化しています。

ABWオフィス研究の目的

ABW10の活動の詳細

当社が2019年より本格的に運用ならびに提案を開始したABWは、「高集中」「対話」「情報整理」など、業務内容に応じて働く場所を選択するオフィス運用のひとつです。固定席にとらわれず、目的に応じて場所を選べる点は、柔軟な働き方や空間資源の有効活用につながります。一方で、頻繁な移動や中断が、業務内容によっては負担となる可能性もあります。

これまでのABWに関する研究では、導入前後の満足度や主観的な生産性評価を扱うものが中心でした。日々のオフィス内の位置情報データや会議予約データと成果指標を結びつけ、さらに職種別に比較する研究は限定的でした。

今回の研究では、ABWやフリーアドレスの運用において、職種や業務特性に応じたオフィス運用設計に向けた示唆を得ることを目的としています。

ABWオフィス研究の概要

本研究では、2025年12月の1か月間、当社の本社オフィスに勤務する従業員945名を対象にBLEビーコンを活用し、オフィス内の移動・滞在データを取得しました。実験期間中は通常通りに業務を遂行し、取得したデータは匿名化したうえで、従業員ごとの行動指標を算出しました。

分析に用いた主な行動指標は以下の4つです。

・一日の移動回数

・移動距離

・能動的移動回数

・滞在場所の偏り

また、生産性関連指標としては、アンケートによる個人の主観評価から得た、ビジネス・ワーク・ライフスタイルの情報をもとに、個人のソーシャル・メンタル・フィジカルコンディションを算出し、職場における生産性を定量的に評価する指標です。

職種は、「設計・開発・企画(集中型)」、「営業・サービス(非定型)」、「管理(定型業務)」の3分類に整理しました。そのうえで、行動指標と生産性関連指標との関係を職種別に分析しました。

なお、スケジュール上の会議予約データを活用し、会議の時間帯と重複しない移動を「能動的移動」と定義しました。これにより、会議など予定に伴う移動と、自らの業務に応じて場所を選択する移動を区別し、ABW本来の「能動的な場所選択」を評価することを試みています。

ある従業員の1日分の位置情報データの例。左は滞在と移動を示すマップ、右は滞在時間のグラフ

ABWオフィス研究の結果

・管理業務の移動の多さは生産性を下げる

分析の結果、勤務時間内の移動回数については、管理(定型業務)で生産性関連指標との負の関連が確認されました。一方、設計・開発・企画(集中型)および営業・サービス(非定型)では、明確な関連は確認されませんでした。

これは、管理業務において移動による業務の中断や、集中を戻すための負荷が生じ、生産性に影響する可能性を示唆しています。

・オフィスの移動距離が長い人ほど生産性が上がる

移動頻度と移動距離をもとにした4群比較では、長距離移動群の生産性関連指標が短距離移動群より高い結果となりました。長距離移動は、異なる部門との連携や行動量を反映している可能性があります。オフィスが広い環境では、移動距離が部門間連携の代理指標となり得ることが示唆されました。

・能動的な移動は生産性を上げる

会議の時間帯と重複しない移動を「能動的移動」として分析した結果、営業・サービス(非定型)および管理(定型業務)では、生産性関連指標との正の関連が確認されました。

移動全体では負の関連が見られる一方、能動的移動では正の関連が見られました。このことから、会議などの予定に伴う受け身の移動・中断が、生産性と負の関連を持つ主要因である可能性が示されました。

・生産性向上には、オフィスでの「能動的」な動きが重要

一方、特定の場所にどの程度滞在が集中しているかを示す「滞在場所の偏り」については、いずれの職種においても生産性関連指標との明確な関連は確認されませんでした。この結果から、ABWオフィスの運用においては、「どこに偏って居るか」よりも、「どのように動くか」、すなわち移動の頻度・距離や能動性に着目することの重要性が示唆されました。

・一律的な移動や出社はマイナス影響の可能性

これらの結果は、ABWやフリーアドレスの運用において、一律に「移動を促す」「出社を促す」のではなく、会議に伴う受け身の移動・中断を抑えながら、業務に応じた能動的な場所選択を促す運用設計が重要であることを示すものです。

総務部門やファシリティ管理部門にとっては、座席数や出社率だけでなく、会議室の配置や運用、導線、部門間連携、職種別の働き方に応じたゾーニングを、このようなデータに基づいて見直す

FACT BOX ・ 要点整理

  • 出典:PR TIMES
  • 分類:調査
  • 製品・サービス:ABWオフィス設計 / 働き方コンサルティング